人称代名詞(6)ベトナム語での人称代名詞 その3 アイン|ベトナム語の壁(文法)

たくさんあるベトナム語の人称代名詞の中で、使用頻度ナンバーツーと言えばこのAnh(アイン)でしょう(なんでいきなりナンバーツーから?)。その分、かなり使い方に迷いがでる言葉でもあります。え?ナンバーワンは何か?それは今後のお楽しみ。

ではじっくりアインを見ていきましょう。

注意:ベトナム北部では「アイン」と発音しますが、ベトナム中部から南部では「アン」と発音する人が多いです。ここでは、すべて「アイン」と表記しますのでご注意ください。

1. 例文

簡単な例文を見てみましょう。相手が、自分に話しかけます。
このとき、相手は自分より年下で、自分は男性です(この前提条件は大事です)。

相手:Chào anh! Anh khỏe không?
(チャオ アイン! アイン ホエ ホン?)

こんにちは! お元気ですか?

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2. 発音

カタカナ読み通り「アイン」で通じます。「イ」の時に気持ち程度口を横に引くと音がよりきれいに出ていいと思います。ちなみに、北部ではアインですが、南部の人はanhのつづりを「アン」と発音します。

3. Anh(アイン)の使用方法

Anh(アイン)はどのように使用するのでしょうか?かなり複雑で、主に以下の5つのケースで使用します。

(1) 自分の実の兄のことを指す。また、実の兄を呼ぶときの人称代名詞及び敬称

(2) 自分より年上の男性に使う人称代名詞(ただし、厳密には自分より10から15歳程度年上まで)

(3) 自分より年上の男性を呼ぶ際に、その人の名前の前にAnh(アイン)を付けると、日本語で人を呼ぶときの「○○さん」の「さん」という敬称

(4) 夫婦もしくは交際中のカップルで、女性が男性を呼びかけるときに使う人称代名詞及び敬称

(5) 男性が、自分より年下の人と話す時(相手の性別は問いません)、もしくは自分の妻やガールフレンドと話す時に「わたし」という意味で使用する人称代名詞

(1)は、Anh(アイン)の本来の使用法です。弟や妹が自分の実の兄に呼びかけるときにAnh(アイン)と呼びます。しかし、実際にはAnh(アイン)は(2)の用途で使われることがほとんどです。そのため、自分の実の兄であることをほかの人に紹介する時にはAnh trai(アイン チャイ)もしくはAnh ruột(アイン ズオット)という表現を使って、より明確にします。

(2)の用途の場合、相手が自分より年上ならば、こちらが相手に「あなた」と呼びかけるときにAnh(アイン)を使います。一方、自分が男性で、相手が自分より年下ならば、相手がこちらに「あなた」と呼びかけるときに使います。

例を見てみましょう。冒頭の例文と似ていますが、もう少し具体的な設定です。

わたし(男性)より10歳年下のフイーさんがわたしに話しかけます。

Huy: Chào anh Bún Chả! Anh khỏe không?
フィー:こんにちは、ブンチャーさん! お元気ですか?

Anh khỏe không? と尋ねているときのAnhは「あなた」という意味です((2)の使用法)。フイーさんはわたしより年下なので、わたしのことを呼ぶときにはAnh(アイン)を付けます。

Chào anh Bún Chả! のanhは、「さん」という意味で、(3)の使用法です。ベトナム語では、ほとんどの場合、名前の前に人称代名詞を付けます。日本語の「さん」、「君(くん)」、「ちゃん」といった役割です。名前だけを呼ぶこともありますが、家族や恋人という関係を除けば、同い年や、年上の人が年下の人を呼ぶときに限られると言えるでしょう。ただし、この場合でも双方が親しい間柄であるときだけのことが多いようです。

(4)の使用法は、日本人の男性がベトナム人の女性と交際もしくは結婚していなければ体験することはないでしょう。ただし、ベトナム人女性が自分の夫もしくはボーイフレンドにAnh(アイン)と呼びかけるのは耳にするかもしれません。ここで、ちょっと好奇心が出てきます。妻もしくは彼女の方が年上ならどうなるのでしょうか?「弟」を意味するEm(エム)になるのでしょうか?答えは「いいえ」。女性が年上でもちゃんと「アイン」と呼びかけ、男性は妻のことを「エム」と呼ぶのです(Em(エム)についてはこの後、考えます)。

(5)の使用法は、自分のことを呼ぶときに使うケース、つまり「わたし」としての使い方です。あなたが男性で、話をしている相手が自分より年下、もしくは自分の妻あるいは彼女であれば、あなたは自分のことを指す「わたし」という意味でAnh(アイン)を使います。また、あなたと話している相手が男性で、あなたより年上なのであれば、その男性は自分のことを指す「わたし」という意味でAnh(アイン)と呼びます。

例を見てみましょう。先ほどのフイーさんとわたしの会話の続きです。

Huy: Chào anh Bún Chả! Anh khỏe không?
フィー:こんにちは、ブンチャーさん! お元気ですか?

Bún Chả : Cảm ơn em. Anh khỏe.
ブンチャー:ありがとう。元気ですよ。

ここでAnh khỏe のanhは「わたし」という意味です。
この思考回路ができるまでに何度頭の中が混乱することか。。。あぁー

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4. 使用上の注意

Anh(アイン)を使いこなすうえでの注意点をあげてみたいと思います。

見知らぬ人にもAnh(アイン)を使える。本来は「兄」という意味のAnh(アイン)ですが、実際には自分より年上の男性にも使う人称代名詞であり、見知らぬ人に声をかけるときにも使ってまったく問題ありません。ベトナム人に関していえば、見知らぬ人からAnh(アイン)と声をかけられて嫌がる人はほとんどいないでしょう。ただし、自分との年齢差に注意を払いましょう。Anh(アイン)とは呼べないほど年上(自分より15歳以上年上ならAnh(アイン)ではありません)だったり、自分よりも年下だったりするなら変な空気が流れるかもしれません。

○上にも書いたように、Anh(アイン)の適用範囲は自分より10から15歳程度年上までが一般的です。ただし、これは自分と相手との関係にもよります。

○会社など、ある一つのグループに所属する仲間同士の場合、15歳以上年が離れていてもAnh(アイン)と呼ぶことは十分あり得ます。その場合には「年上の同士」という感覚でしょう。

単に年齢差だけではなく、自分と相手がそれぞれ何歳ぐらいなのか、ということも関係します。たとえば、ホアンさんとトゥンさんとわたしの三人がいたとします。全員、男性です。この三人の年齢は次の通りです。

  • ホアンさん 48歳
  • わたし 30歳
  • トゥンさん 12歳

わたしとホアンさん、わたしとトゥンさんはそれぞれ18歳違います。では、質問です。

わたしはホアンさんをアインと呼んでも大丈夫でしょうか?

答え:問題ありません。人によっては「おじさん」を意味するChú(チュー)を使う人もいるでしょう。でも、お互いに大人同士なので、わたしがホアンさんをAnh(アイン)と呼ぶのは問題ないと考える人は多いでしょう。

では、トゥンさんはわたしのことをAnh(アイン)と呼ぶのでしょうか

答え:呼びません。ほぼ間違いなく、「おじさん」を意味するチューを使うでしょう。確かに年齢差は18歳で、わたしとホアンさんの関係を考えればよさそうに見えますが、わたしが大人であるのに対し、トゥン君はまだ未成年、しかも子どもと言える年齢です。子どもが大人にAnh(アイン)と呼びかけることはまずありません。なぜなら、ベトナム語では、適切な敬意を示しておらず、大変失礼なことになるからです。同じ未成年でも高校生くらいで、かなり大人に近くなってくると18歳年上の人にAnh(アイン)と呼ぶのもありかもしれません。

相手に対する敬意の意味で、年下の男性をAnh(アイン)と呼ぶこともあるが、必要ということではない。日本では年下の人を呼ぶときに、親しい間柄であれば「くん」や「ちゃん」を使うことがあります。一方、社会人同士や見知らぬ人であれば、相手に対する敬意や、相手との距離感を出すために、年下の人を呼ぶときにも「さん」付けする人も多いと思います。

ベトナム人でもそのような意味でAnh(アイン)を使う人がいます。ただし、必要とはされていないようです。年下の人をAnh(アイン)と呼ばなくても「慣れ慣れしい」などと感じられることはほとんどないと思います。年下の人と話す時、最初の数回ぐらいは相手をAnh(アイン)と呼んでもいいかもしれませんが、普通は相手が耐えられなくなって、「わたしはあなたより年下なので、Anh(アイン)ではありません」と、言ってくると思います。ベトナム語の人称代名詞は、Anh(アイン)が「わたし」になったり「あなた」になったりしてややこしいので、いつも男性に話しかけるときには念いに関わらずAnh(アイン)を使いたくなりますが、ここは頑張っていつも適切な人称代名詞を使えるようになりましょう!

アインとアインになることがある。いろいろ書いてきましたが、やはりベトナム人も見知らぬ人に、外見からするとお互いの年齢が近い時で、実際にはまだ年の差を知らない時に、あえてAnh(アイン)とEm(エム)を使って歳の差を強調するのもどうかと考える人は結構いるようです。そういう時はアインとアインになります。自分のことはエムと呼び、相手のことをアインと呼ぶのです。でも、この使い方になると、実は日本語の「わたし」と「あなた」という使い方と同じなので、ベトナム語初心者には意外に話しやすかったりします。

6. まとめ

○話している相手が男性で、自分より年上なら、「あなた」という意味で相手のことをAnh(アイン)と呼ぶ。
○自分が男性で、話している相手が自分より年下なら、「わたし」という意味で自分のことをAnh(アイン)と呼ぶ。
(つまり、あなたが女性なら、この二番目の点は関係ありません。)