人称代名詞(7)ベトナム語での人称代名詞 その4 チ|ベトナム語の壁(文法)

前回勉強したアインは、自分より年上の男性に使う人称代名詞です。今回、勉強するのは、自分より年上の女性に使う人称代名詞です。

年上の女性には、チと呼びかけます。

とはいっても、アインと同様、誰でもチと呼べばいいわけでもありません。今回は、チの使い方を見ていきましょう。

(注意)ベトナム北部では「チ」と短く発音することが多いですが、南部の人は少し伸ばす感じで「チ-」と発音する人が多いように感じます。ここではすべて「チ」と表記します。

1. 例文

簡単な例文を見てみましょう。自分が、相手に話しかけます。
このとき、相手は、女性で、自分より年上です(この前提条件は大事です)。

相手:Chào chị! Chị khỏe không?
(チャオ チ! チ ホエ ホン?)

こんにちは! お元気ですか?

2. 発音

カタカナ読み通り「チ」で通じますが、最後に、気持ち程度口を横に引くと音がよりはっきりしていいと思います。chịという単語のiのアルファベットの下についている小さな点は、詰まった発音であることを示す声調記号です。ですから、本来はチッと発音するぐらいでもいいと思うのですが、実際にはそこまで詰めた音にしているわけではありません。また、南部ではむしろ少し伸ばし気味で「チー」というように聞こえます。

3. Chị(チ)の使用方法

Chị(チ)はどのように使用するのでしょうか?主に以下の4つのケースで使用します。

自分の実の姉のことを指す。また、実の姉を呼ぶときの人称代名詞及び敬称

自分より年上の女性に使う人称代名詞(ただし、厳密には自分より10から15歳程度年上まで)

自分より年上の女性を呼ぶ際に、その人の名前の前にchị(チ)を付けると、日本語で人を呼ぶときの「○○さん」の「さん」という敬称

④女性が、自分より年下の人と話す時(相手の性別は問いません)に「わたし」という意味で使用する人称代名詞

(1)は、chị(チ)の本来の使用法です。弟や妹が自分の実の姉に呼びかけるときにchị(チ)と呼びます。しかし、アインの時と同様、実際には(2)の用途で使われることがほとんどです。そのため、(1) のように、自分の実の姉であることをほかの人に紹介する時にはchị gái(チ ガー↗)もしくはchị ruột(チ オット)という表現を使って、より明確にします。

(2)の用途の場合、相手が女性で、自分より年上ならば、こちらが相手に「あなた」と呼びかけるときにchị(チ)を使います。一方、自分が女性で、相手が自分より年下ならば、相手がこちらに「あなた」と呼びかけるときにchị(チ)を使います。

例を見てみましょう。冒頭の例文と似ていますが、もう少し具体的な設定です。

わたしが、自分より10歳年上のトゥイーさん(女性)に話しかけます。

自分: Chào chị Thủy! Chị khỏe không?
自分:こんにちは、トゥイーさん! お元気ですか?

Chị khỏe không? と尋ねているときのchịは「あなた」という意味です((2)の使用法)。トゥイーさんはわたしより年上なので、わたしがトゥイーさんのことを呼ぶときにはchị(チ)を付けます。

Chào chị Thủy! のchịは、「さん」という意味で、(3)の使用法です。ベトナム語では、ほとんどの場合、名前の前に人称代名詞を付けます。日本語の「さん」、「君(くん)」、「ちゃん」といった役割です。名前だけを呼ぶこともありますが、同い年や、年上の人が年下の人を呼ぶときに限られると言えるでしょう。ただし、この場合でも双方が親しい間柄であるときだけのことが多いようです。

(4)の使用法は、自分のことを呼ぶときに使うケース、つまり「わたし」としての使い方です。あなたが女性で、話をしている相手が自分より年下であれば、あなたは自分のことを指す「わたし」という意味でchị(チ)を使います。また、あなたと話している相手が女性で、あなたより年上なのであれば、その女性は自分のことを指す「わたし」という意味でchị(チ)と呼びます。

例を見てみましょう。先ほどの会話の続きです。

自分: Chào chị Thủy! Chị khỏe không?
自分:こんにちは、トゥイーさん! お元気ですか?

Thủy: Chị khỏe.
トゥイーさん:はい、(わたしは)元気です。

トゥイーさんが「元気です」と答える時に言うchị(チ)は、「わたし」という意味です。混乱しがちですが、慣れるようにしましょう。

4. 使用上の注意

chị(チ)を使いこなすうえでの注意点をあげてみたいと思います。

見知らぬ人にもchị(チ)を使える。本来は「姉」という意味のchị(チ)ですが、実際には自分より年上の女性にも使う人称代名詞であり、見知らぬ人に声をかけるときにも使ってまったく問題ありません。ベトナム人に関していえば、見知らぬ人からchị(チ)と声をかけられて嫌がる人はほとんどいないでしょう。

アインの時と同様、自分との年齢差に注意を払う必要があります。ただし、多くのベトナム人の女性も、できるだけ若く見られたいという気持ちを持っていますから、適切な判断が必要です。例えば、明らかに自分の親と同年代あるいはそれより少し若いくらいの女性であれば、chị(チ)と呼ぶと、不敬な印象を与えてしまうので、chị(チ)と呼ばないほうがよいでしょう。でも、chị(チ)と呼ぶべきかなと迷うくらいの年齢差なら、chị(チ)と呼んだ方が喜ばれると思います。

○一方、年下の女性をchị(チ)と呼ぶのは、ある程度の例外を除いて好まれません。というのは、老けているとみなしているような印象を与えるからです。例外として考えられるのは、たとえばある夫婦がいて、ご主人はあなたより年上ですが、奥さんはあなたより年下の場合です。しかも、その夫婦とそれほど親しいというわけではないのであれば、ご主人はアイン、奥さんはchị(チ)と呼んで構いません。

○上にも書いたように、chị(チ)の適用範囲は自分より10から15歳程度年上までが一般的ですが、少し広めに幅を持たせても大丈夫でしょう。ただし、これは自分と相手との関係にもよります。

○会社など、ある一つのグループに所属する仲間同士の場合、15歳以上年が離れていてもchị(チ)と呼ぶことは十分あり得ます。その場合には「年上の同士」という感覚でしょう。

アインと同様、自分と相手がそれぞれ何歳ぐらいなのか、ということも関係します。たとえば、トゥイーさんとチャーさんとわたしの三人がいたとします。全員、女性です。この三人の年齢は次の通りです。

トゥイーさん 48歳
わたし 30歳
チャーさん 12歳

わたしとトゥイーさん、わたしとチャーさんはそれぞれ18歳違います。では、質問です。

わたしはトゥイーさんをchị(チ)と呼んでも大丈夫でしょうか?

答え:問題ありません。人によっては「おばさん」を意味するcô(コー)を使う人もいるでしょう。でも、お互いに大人同士なので、わたしがトゥイーさんをchị(チ)と呼ぶのは問題ないと考える人は多いでしょう。

では、チャーさんはわたしのことをchị(チ)と呼ぶのでしょうか

答え:呼びません。ほぼ間違いなく、「おばさん」を意味するコーを使うでしょう。確かに年齢差は18歳で、わたしとトゥイーさんの関係を考えればよさそうに見えますが、わたしが大人であるのに対し、チャーさんはまだ未成年、しかも子どもと言える年齢です。子どもが大人にchị(チ)と呼びかけることはまずありません。なぜなら、ベトナム語では、適切な敬意を示しておらず、大変失礼なことになるからです。同じ未成年でも高校生くらいで、かなり大人に近くなってくると18歳年上の人にchị(チ)と呼ぶのもありかもしれません。

相手に対する敬意の意味で、年下の女性をchị(チ)と呼ぶこともあるが、必要ということではない。

日本では年下の人を呼ぶときに、親しい間柄であれば「くん」や「ちゃん」を使うことがあります。一方、社会人同士や見知らぬ人であれば、相手に対する敬意や、相手との距離感を出すために、年下の人を呼ぶときにも「さん」付けする人も多いと思います。

ベトナム人でもそのような意味でchị(チ)を使う人がいます。ただし、必要とはされていないようです。特にある程度親しい関係なのに、いつまでもchị(チ)と呼ぶのは少ないようです。年下の女性と話す時、最初の数回ぐらいは相手をchị(チ)と呼んでもいいかもしれませんが、普通は相手が耐えられなくなって、「わたしはあなたより年下なので、chị(チ)ではありません」と、言ってくると思います。

もちろん、ある程度フォーマルな場などでは、chị(チ)と呼ぶこともあるでしょう。

5. まとめ

○話している相手が女性で、自分より年上なら、「あなた」という意味で相手のことをchị(チ)と呼ぶ。
○自分が女性で、話している相手が自分より年下なら、「わたし」という意味で自分のことをchị(チ)と呼ぶ。(つまり、あなたが男性なら、この点は関係ありません。)

人称代名詞(6)ベトナム語での人称代名詞 その3 アイン|ベトナム語の壁(文法)

たくさんあるベトナム語の人称代名詞の中で、使用頻度ナンバーツーと言えばこのAnh(アイン)でしょう(なんでいきなりナンバーツーから?)。その分、かなり使い方に迷いがでる言葉でもあります。え?ナンバーワンは何か?それは今後のお楽しみ。

ではじっくりアインを見ていきましょう。

注意:ベトナム北部では「アイン」と発音しますが、ベトナム中部から南部では「アン」と発音する人が多いです。ここでは、すべて「アイン」と表記しますのでご注意ください。

1. 例文

簡単な例文を見てみましょう。相手が、自分に話しかけます。
このとき、相手は自分より年下で、自分は男性です(この前提条件は大事です)。

相手:Chào anh! Anh khỏe không?
(チャオ アイン! アイン ホエ ホン?)

こんにちは! お元気ですか?

広告

2. 発音

カタカナ読み通り「アイン」で通じます。「イ」の時に気持ち程度口を横に引くと音がよりきれいに出ていいと思います。ちなみに、北部ではアインですが、南部の人はanhのつづりを「アン」と発音します。

3. Anh(アイン)の使用方法

Anh(アイン)はどのように使用するのでしょうか?かなり複雑で、主に以下の5つのケースで使用します。

(1) 自分の実の兄のことを指す。また、実の兄を呼ぶときの人称代名詞及び敬称

(2) 自分より年上の男性に使う人称代名詞(ただし、厳密には自分より10から15歳程度年上まで)

(3) 自分より年上の男性を呼ぶ際に、その人の名前の前にAnh(アイン)を付けると、日本語で人を呼ぶときの「○○さん」の「さん」という敬称

(4) 夫婦もしくは交際中のカップルで、女性が男性を呼びかけるときに使う人称代名詞及び敬称

(5) 男性が、自分より年下の人と話す時(相手の性別は問いません)、もしくは自分の妻やガールフレンドと話す時に「わたし」という意味で使用する人称代名詞

(1)は、Anh(アイン)の本来の使用法です。弟や妹が自分の実の兄に呼びかけるときにAnh(アイン)と呼びます。しかし、実際にはAnh(アイン)は(2)の用途で使われることがほとんどです。そのため、自分の実の兄であることをほかの人に紹介する時にはAnh trai(アイン チャイ)もしくはAnh ruột(アイン ズオット)という表現を使って、より明確にします。

(2)の用途の場合、相手が自分より年上ならば、こちらが相手に「あなた」と呼びかけるときにAnh(アイン)を使います。一方、自分が男性で、相手が自分より年下ならば、相手がこちらに「あなた」と呼びかけるときに使います。

例を見てみましょう。冒頭の例文と似ていますが、もう少し具体的な設定です。

わたし(男性)より10歳年下のフイーさんがわたしに話しかけます。

Huy: Chào anh Bún Chả! Anh khỏe không?
フィー:こんにちは、ブンチャーさん! お元気ですか?

Anh khỏe không? と尋ねているときのAnhは「あなた」という意味です((2)の使用法)。フイーさんはわたしより年下なので、わたしのことを呼ぶときにはAnh(アイン)を付けます。

Chào anh Bún Chả! のanhは、「さん」という意味で、(3)の使用法です。ベトナム語では、ほとんどの場合、名前の前に人称代名詞を付けます。日本語の「さん」、「君(くん)」、「ちゃん」といった役割です。名前だけを呼ぶこともありますが、家族や恋人という関係を除けば、同い年や、年上の人が年下の人を呼ぶときに限られると言えるでしょう。ただし、この場合でも双方が親しい間柄であるときだけのことが多いようです。

(4)の使用法は、日本人の男性がベトナム人の女性と交際もしくは結婚していなければ体験することはないでしょう。ただし、ベトナム人女性が自分の夫もしくはボーイフレンドにAnh(アイン)と呼びかけるのは耳にするかもしれません。ここで、ちょっと好奇心が出てきます。妻もしくは彼女の方が年上ならどうなるのでしょうか?「弟」を意味するEm(エム)になるのでしょうか?答えは「いいえ」。女性が年上でもちゃんと「アイン」と呼びかけ、男性は妻のことを「エム」と呼ぶのです(Em(エム)についてはこの後、考えます)。

(5)の使用法は、自分のことを呼ぶときに使うケース、つまり「わたし」としての使い方です。あなたが男性で、話をしている相手が自分より年下、もしくは自分の妻あるいは彼女であれば、あなたは自分のことを指す「わたし」という意味でAnh(アイン)を使います。また、あなたと話している相手が男性で、あなたより年上なのであれば、その男性は自分のことを指す「わたし」という意味でAnh(アイン)と呼びます。

例を見てみましょう。先ほどのフイーさんとわたしの会話の続きです。

Huy: Chào anh Bún Chả! Anh khỏe không?
フィー:こんにちは、ブンチャーさん! お元気ですか?

Bún Chả : Cảm ơn em. Anh khỏe.
ブンチャー:ありがとう。元気ですよ。

ここでAnh khỏe のanhは「わたし」という意味です。
この思考回路ができるまでに何度頭の中が混乱することか。。。あぁー

広告

4. 使用上の注意

Anh(アイン)を使いこなすうえでの注意点をあげてみたいと思います。

見知らぬ人にもAnh(アイン)を使える。本来は「兄」という意味のAnh(アイン)ですが、実際には自分より年上の男性にも使う人称代名詞であり、見知らぬ人に声をかけるときにも使ってまったく問題ありません。ベトナム人に関していえば、見知らぬ人からAnh(アイン)と声をかけられて嫌がる人はほとんどいないでしょう。ただし、自分との年齢差に注意を払いましょう。Anh(アイン)とは呼べないほど年上(自分より15歳以上年上ならAnh(アイン)ではありません)だったり、自分よりも年下だったりするなら変な空気が流れるかもしれません。

○上にも書いたように、Anh(アイン)の適用範囲は自分より10から15歳程度年上までが一般的です。ただし、これは自分と相手との関係にもよります。

○会社など、ある一つのグループに所属する仲間同士の場合、15歳以上年が離れていてもAnh(アイン)と呼ぶことは十分あり得ます。その場合には「年上の同士」という感覚でしょう。

単に年齢差だけではなく、自分と相手がそれぞれ何歳ぐらいなのか、ということも関係します。たとえば、ホアンさんとトゥンさんとわたしの三人がいたとします。全員、男性です。この三人の年齢は次の通りです。

  • ホアンさん 48歳
  • わたし 30歳
  • トゥンさん 12歳

わたしとホアンさん、わたしとトゥンさんはそれぞれ18歳違います。では、質問です。

わたしはホアンさんをアインと呼んでも大丈夫でしょうか?

答え:問題ありません。人によっては「おじさん」を意味するChú(チュー)を使う人もいるでしょう。でも、お互いに大人同士なので、わたしがホアンさんをAnh(アイン)と呼ぶのは問題ないと考える人は多いでしょう。

では、トゥンさんはわたしのことをAnh(アイン)と呼ぶのでしょうか

答え:呼びません。ほぼ間違いなく、「おじさん」を意味するチューを使うでしょう。確かに年齢差は18歳で、わたしとホアンさんの関係を考えればよさそうに見えますが、わたしが大人であるのに対し、トゥン君はまだ未成年、しかも子どもと言える年齢です。子どもが大人にAnh(アイン)と呼びかけることはまずありません。なぜなら、ベトナム語では、適切な敬意を示しておらず、大変失礼なことになるからです。同じ未成年でも高校生くらいで、かなり大人に近くなってくると18歳年上の人にAnh(アイン)と呼ぶのもありかもしれません。

相手に対する敬意の意味で、年下の男性をAnh(アイン)と呼ぶこともあるが、必要ということではない。日本では年下の人を呼ぶときに、親しい間柄であれば「くん」や「ちゃん」を使うことがあります。一方、社会人同士や見知らぬ人であれば、相手に対する敬意や、相手との距離感を出すために、年下の人を呼ぶときにも「さん」付けする人も多いと思います。

ベトナム人でもそのような意味でAnh(アイン)を使う人がいます。ただし、必要とはされていないようです。年下の人をAnh(アイン)と呼ばなくても「慣れ慣れしい」などと感じられることはほとんどないと思います。年下の人と話す時、最初の数回ぐらいは相手をAnh(アイン)と呼んでもいいかもしれませんが、普通は相手が耐えられなくなって、「わたしはあなたより年下なので、Anh(アイン)ではありません」と、言ってくると思います。ベトナム語の人称代名詞は、Anh(アイン)が「わたし」になったり「あなた」になったりしてややこしいので、いつも男性に話しかけるときには念いに関わらずAnh(アイン)を使いたくなりますが、ここは頑張っていつも適切な人称代名詞を使えるようになりましょう!

アインとアインになることがある。いろいろ書いてきましたが、やはりベトナム人も見知らぬ人に、外見からするとお互いの年齢が近い時で、実際にはまだ年の差を知らない時に、あえてAnh(アイン)とEm(エム)を使って歳の差を強調するのもどうかと考える人は結構いるようです。そういう時はアインとアインになります。自分のことはエムと呼び、相手のことをアインと呼ぶのです。でも、この使い方になると、実は日本語の「わたし」と「あなた」という使い方と同じなので、ベトナム語初心者には意外に話しやすかったりします。

6. まとめ

○話している相手が男性で、自分より年上なら、「あなた」という意味で相手のことをAnh(アイン)と呼ぶ。
○自分が男性で、話している相手が自分より年下なら、「わたし」という意味で自分のことをAnh(アイン)と呼ぶ。
(つまり、あなたが女性なら、この二番目の点は関係ありません。)

人称代名詞(5)ベトナム語での人称代名詞 その2  トイ、バンッ|ベトナム語の壁(文法)

ややこしいベトナム語の人称代名詞で簡単なスタートを切る方法の一つは、tôi(トイ)とbạn(バンッ)を使うこと。

tôi(トイ)は、話している人が自分自身を指す「わたし」という役割しかありません。
同じように、bạn(バンッ)は、話している人から見て相手、つまり「あなた」という役割しかありません。

1. 例文

簡単な例文を見てみましょう。自分が、相手に話しかけます。

自分:Tôi tên là Nam. Bạn tên là gì?
(トイ テン ラー ナム。バンッ テン ラー ズィー?)

わたしの名前はナムです。あなたのお名前は何ですか?

2. tôi(トイ)の発音

tôi(トイ)は、カタカナ読みの通りで問題ないでしょう。声調は「なし」なので、必ずフラットに発生します。語尾をあげたり、下げたりすると意味が違う言葉になるので注意しましょう。みなさん、樋 (とい)を知っていますか?雨が降った時に、家の屋根から流れる雨水を受けて地面に流す溝もしくはパイプのことです。ほかの地方はわかりませんが、関東ではフラットに発音します。この「樋 (とい)」とtôiの発音はほぼ同じです。

3. bạn(バンッ)の発音

bạn(バンッ)を「バン」と説明する人もいますが、「バン」とカタカナ読みするとまず通じません。カタカナ読みで「バン」というとき、言い終わった時に舌は口の中のどこにも触れていないはずです。日本語ではこれも「ン」と表記されますが、ベトナム語では ng となります。ですから普通に「バン」とカタカナ読みすると bang と聞こえてしまい、ベトナム人には通じない、もしくは誤解されてしまうのです。

最初の「バ」の音は、赤ちゃんをあやす時に言う「ベロベロバア」の「バ」の音とほぼ同じです。次の「ン」ですが、これは、口を開けたまま、下の先端を上の前歯の裏側の付け根につけて「ン」と言う音です。ベトナム語では、単語の最後が n の時は必ず舌の先端を、上の前歯の裏側の付け根につけて発声します。そして、最後の「ッ」(小さいツ)は、詰まった音になります。これはこのbạnの声調が「ナンッ」と呼ばれる、詰まった音だからです。bạnのaの下についている小さな点、これが「ナンッ」という声調を示しています。

もう少し練習をしてみましょう。「バッタ」と言ってみてください。昆虫の「バッタ」です。次に、同じようにバッタと言いますが、今度は最後の「タ」は言わずに、「バッ」で止めてください。口は大きく開けて「バッ」と言いましょう。口の開け方が狭いと、忙しいを意味するbậnになってしまいます。言ってみると、最後が詰まった感じになりましたか?これが、「ナンッ」の声調です。この「バッ」で通じる可能性も結構ありますが、このままだとbạnのnの音が含まれません。ですから、先に書いたように、下の先端を上の前歯の裏側の付け根につけて発声するようにしましょう。

この単語は慣れるまで、発音しにくく、かつ、相手に通じにくい単語です。ですから発音をしっかり練習しましょう。

4. tôi(トイ)の使い方

これまで見てきたように、ベトナム語では人称代名詞が多く、しかも状況によって使い分ける必要があります。では、tôi(トイ)はどのように使えばよいのでしょうか?

実は、ベトナム人がtôi(トイ)を使う機会はかなり限られています。このtôiという言葉は、ほぼ自動的に相手に自分との一定の距離(つまり、遠いということ)を伝えます。ベトナム人同士であれば、初めて会う人に対してでさえ、自分のことをtôiと呼ぶ人はあまりいません。とはいえ、あまり使われていないだけであって、自分のことをtôiと呼ぶこと自体は間違いではありませんし、特に外国人であれば、まったく問題ないでしょう。

ベトナム人のtôiの使い方についていえば、講演会のようなところで、それなりの人数の聴衆に向かって話している講演者が自分のことを呼ぶときにtôiということはあります。これはおそらく、そうした場がかなり改まっていて、それなりの距離感があるほうが適切だからだと思われますし、もう一つは、客席側にいろいろな年齢の人がいるからだと思います。

会話の際には、これまでも書いたように、一対一もしくは少数の人による会話の中で使われることはほとんどないようです。また、わたしの観察では、年下の人が年上の人に使うこともあまりないようです(年下の人はem(エム)やcháu(チャウ)など、ほかの人称代名詞を使います)。年上の人が、ある程度の敬意をこめて年下の人と話す時、年下であっても男性をanh(アイン)、女性をchị(チ)、と呼ぶことがありますが、その時には自分のことをtôiと呼びます。

ここで強調したいのは、tôiは日本語の「わたし」と同じ役割なだけであって、この言葉が与える印象は日本語の「わたし」とは明らかに違います。ですから、ベトナム語に慣れてきたら、これ以降に説明するほかの人称代名詞を使い分けられるようにするとよいでしょう。

5. bạn(バンッ)の使い方

bạn(バンッ)はtôiよりは使用頻度が高いと思います。特に、少人数であれ大人数であれ、ある程度の人数の人に対して話しかけるときには、日本語の「たち」のように複数を意味するcác(カック)という言葉を付けて、các bạn(ベトナム人が発声するともっと短くなり、カックバッのように聞こえます)と使います。日本語で「みなさん」という意味ですね。

また、見知らぬ人に話しかけるときにbạnを使うことも多いと思います。ただし、「あなた」という意味でbạnを使うときはtôiの時と同じく、年上の人が年下の人に使うのであって、年下の人が年上の人を呼ぶときにbạnというのは聞いたことがありません。自分と相手の人の歳がほとんど同じで、年齢を聞くまでどちらが年上なのかわからない時にbạnを使うこともあります。

6. まとめ

tôi(トイ)には「わたし」、bạn(バンッ)には「あなた」という役割があるので、ベトナム語初心者はこれでスタートすることができます。ベトナム人は意味を正しく理解してくれるでしょう。ただ、この二つだけですべての会話を続けていくことはあまりお勧めできません。それは次の理由によります。

まず、自然ではありません。先にも書きましたが、tôiとbạnは日本語の「わたし」「あなた」と同じ役割を持っているだけで、日本語と同じ使われ方をしているわけではありません。特にこの二つの言葉はベトナム人に対して、自分と相手の間に少なからず距離感があることを言外に伝えるので、すでに知り合っている関係なのにこれを使い続けると、相手は寂しく感じるかもしれません(ベトナム語とはそういうものなのです)。

二つ目の理由は、自分がtôiとbạnを使っても、会話をしている相手のベトナム人はそのほかの人称代名詞を使うでしょうから、結局それに慣れない限り、ベトナム語の壁は乗り越えられないのです。自分が話す時に混乱しないという意味でtôiとbạnでスタートするのは良いですが、相手が話す時に自分の頭の中が混乱することまでは避けられません。

ではベトナム人はどんな人称代名詞を使うのか、さらに見ていきましょう!

人称代名詞(4)ベトナム語での人称代名詞 その1 概要|ベトナム語の壁(文法)

①いつでも、「わたし」は自分、「あなた」は相手

日本語では、話をしている人から見て、「わたし」はいつでも自分のこと、「あなた」は相手のことを意味します。でも、ベトナム語では違うんです!
では、ここで、いつもの例文を見てみましょう。

男:わたしは、あなたを愛しています。
女:わたしも、あなたを愛しています。

わかりやすいように、色付けしてみました。
青色は男、赤色は女を表しています。

つづいて、この例文をベトナム語にしてみましょう。
(後の回で説明するので、ここでは、それぞれの単語の意味については省略します)

男:Anh yêu em. (読み方:アイン イウ エム)
女:Em cũng yêu anh. (読み方:エム クン イウ アイン)

同じように、青色は男、赤色は女で色付けしてみます。

男:Anh yêu em.
女:Em cũng yêu anh.

あれ?なんか変ですね!違いに気が付きましたか?

日本語の例文では、男性も女性も、自分のことは「わたし」と呼び、相手のことは「あなた」と呼んでいます。

でもベトナム語の例文では、男性は、自分のことを「Anh」と呼び、相手のことは「Em」と呼んでいるのに対し、女性は、自分のことを「Em」と呼び、相手のことは「Anh」と呼んでいます。

ベトナム語の文法はこうなのです。

会話において、自分と相手との年齢や立場に応じて、その会話での一人一人の人称代名詞が固定されるのです。この感覚、なかなか難しいですよね。。。わたしも慣れるまでずいぶんと時間がかかりました。

男:Anh yêu em.
女:Em cũng yêu anh.

上のベトナム語の例文ですが、日本語では自分のことは「わたし」、相手のことは「あなた」なので、単純にAnhは「わたし」、emは「あなた」と考えてしまうと、

男:わたし(Anh)は、あなた(Em)を愛しています。
女:あなた(Em)も、わたし(Anh)を愛しています。

となって、文章の意味が成り立ちません。
そもそも「あなたも(は)わたしを愛しています」なんて、CHAGE&ASKAの、君はぼくを愛している~♩みたいで、とても傲慢な文章ですよね。。。

でも、ベトナム語ではこれが正解です。

②ベトナム語での人称代名詞は、自分と相手の「名前」のようなものと考えよう

では、最後に、この文法に慣れるための一つのヒントを送ります。
それは、ベトナム語での人称代名詞は、「名前」みたいなものだ、と考えてしまうことです。

これまでの例文では単に「男」と「女」としてきましたが、この二人の名前は「太郎」と「花子」だとします。では、少し日本語的にはおかしいですが、この二人が、自分たちの名前を使って、この文章を言ったとするとどうなるか見てみましょう。

太郎:太郎は、花子を愛しています。
花子:花子も、太郎を愛しています。

ちょっと自然ではなく、なにやら結婚式で誓いの言葉みたいになりましたが、でも文法としては問題ないし、理解できますよね。

ベトナム語にはうんざりするほどの人称代名詞があり、しかも文法も日本語とは違います。でも、イメージとしては、自分と相手との間でどの人称代名詞を使おうとも、それはその会話の中で常に「固定」であること、それはちょうど自分と相手の名前を使って会話するようなものだ、ということです。

すっかり混乱しましたか?
大丈夫、そのうち慣れますから!

では次回から、うんざりするほどたくさんある人称代名詞を一つずつ見ていき、どんな場面でどの人称代名詞を使うのか、勉強していきましょう。それに、発音にも注目し、ベトナム人に通じる発音を身に付けて行きたいと思います。


【広告】ホテルの予約ならエクスペディア
:気になるホテルの料金をエクスペディアで調べてみよう!

人称代名詞 (3) 日本語での人称代名詞|ベトナム語の壁(文法)

自分でもくどいほど繰り返し書いていますが、ベトナム語での人称代名詞は、①人称代名詞の数がたくさんある(正直、うんざりするほど。。。)、②「自分」や「相手」を指す語が、話の内容や話をしている相手との関係で頻繁に変化する、という特徴があり、これがベトナム語を学ぶときの大きな壁になります。

「壁」ってどういうこと?と思われるかもしれません。簡単に言えば、通じない、その一言です。頑張って何とかベトナム語(らしきもの)を話してみたのに、つ・う・じ・な・い。そして、相手の言っていることもわからない。これが「壁」なのです。

この壁を乗り越えていかなければ相手に通じるベトナム語は話せません。

ここでは日本語での人称代名詞の使われ方を考え、ベトナム語と比較してみましょう。ここで日本語の使われ方を整理すると、ベトナム語の人称代名詞を攻略するヒントにつながると思います。

では、英語での人称代名詞の使われ方を考えたときと同じく、例文を見てみましょう。

 男:わたし(私)は、あなた(相手の女性のこと)を愛しています。

女:わたし(私)も、あなた(相手の男性のこと)を愛しています。

 

あれ?英語の時と同じ例文。。。

はい、別に手を抜いたわけではなくて、この方が比較しやすいからです。

英語の時と同じく、ベトナム語との比較のため、冒頭で紹介したベトナム語の人称代名詞の二つの特徴に絞って日本語の人称代名詞の使い方を見てみましょう。

①いつでも、「わたし」は自分、「あなた」は相手

英語の時と同じように、日本語でも「わたし」といえば自分のことを指し、「あなた」と言えば相手のことを指します。

②自分を指す人称代名詞は「わたし」以外もある

みなさんは自分のことを普段の会話でどのように呼びますか?

仕事やある程度フォーマルな場ではたいてい「わたし」とか「わたくし」と呼ばれると思います。でも、時と場所によってほかにもいろいろな表現がありますよね。たとえば、

  • ぼく
  • おれ
  • 自分

また、特定の関係にのみ使用できるものとして、

先生(教員が自分の生徒に対して)

などがあります。

お気づきですか?

英語の人称代名詞のページでも書きましたが、英語では基本的に自分のことを指す人称代名詞は”I” (my, me) だけ、相手のことを指す人称代名詞は “you” (your) だけですね。(「基本的に」と書いたのは、英語でも、父親のことをdad, daddy, fatherと言ったり、母親のことをmom, mommy, motherと呼ぶからです。)

でも、日本語には人称代名詞の数は結構あるんです。そして、ここが大切な点ですが、日本人であれば何の迷いもなく複数の人称代名詞を使い分けています。

課長席の前で「この仕事、ぜひわたしにやらせてください!」と意気込んでみせ、

自分の席に戻ったら隣の部下に「オレ、いろいろあるから、この仕事、お前やっておいて」と丸投げし、

続いて携帯を取り出して彼女に「あ、デートの時間?ぼくは何時でもいいからキミに合わせるよ」と調子のいいことをいいます。

「わたし」、「オレ」、「ぼく」、「お前」、「キミ」、これってどういう風に使い分けるのでしょう?

「どういう風にって言われても。。。」と困るくらい、日本人にとっては自然なことですよね。


課長席の前で

「この仕事、ぜひわたしにやらせてください!」

と意気込んでみせたのに、やっぱり別の仕事が終わらなくて、

「課長、ご相談があるのですが。。。」というところを、

「お前、ご相談があるのですが。。。」という日本人はいません。

でも日本語を外国語として学ぶ人の大多数にとって、人称代名詞の使い分けはなかなか難しいと思います。

実は、日本語のこのポイントは、少しベトナム語と似ているのです。ベトナム語から見れば、人称代名詞については、英語よりも日本語の方がベトナム語の方が近いのです。ですから、アインとかという人称代名詞で混乱してしまうことがあっても、元気を出してください!この壁は乗り越えられます!

ではいよいよベトナム語での人称代名詞の使われ方を見てみましょう。